イノベーションの普及の過程

2006年12月7日

研究

t f B! P L
普及に関する研究は、イノベーションの採用の速度の何が影響するのかを見出そうとするものである。典型的にはS字(ロジスティック曲線)によって表現される。 

初期の採用の速度は遅く、採用者は<イノベーター>、次に採用するのが<早期採用者>、そして<遅れた大多数>、最後に<落伍者>を残し、曲線はサチレートする。

種々の分野で研究がなされているが、ロバストな一般的モデルを見出すことに成功した研究はない。  

「薄型TV市場でプラズマ苦戦、液晶が大画面攻勢・民間調査 *1」では、プラズマテレビの鈍化が伝えられているが、システムを「テレビ」と定義すれば、テレビの普及はすでに鈍化している。液晶、プラズマは技術ブレークスルーのハイエンド化に過ぎない。

つまりは、「買い替え」であるから、サチレートするのに5年もかからない(英国のカラーテレビ普及が浸透率で70%を超えるのに約12年である)。 おそらく、語弊がなければ、一般的なモデルを見出すことは、出来ない。 

ヒッペルの研究(*2)が示唆するように、そもそもイノベーションの源泉自体が多様であるから、普及を測定すること自体が困難になる。

データマイニングのように、数万の商品を分析、しかも、源泉を指定しながら・・学者向きではない研究である。行うとしても政府の協力は欠かせないだろう。  

特殊解は商品を特定すれば、見出されている。それらは需要、供給サイドに分類される。 なぜ、困難なのか?テレビの例でも見たように: 
①システムの定義が困難である。 
②イネーブラーがシステム周辺にあり、普及し始めるトリガーの見極めが主観的になってしまう。 

①は定義次第では、テレビも「情報提供機器」となってしまえば、携帯電話と合算される。狭くすれば、データ欠如の可能性、広くすれば、ノイズが大きくなってしまう。
②では、テレビでは、液晶、プラズマは随分と昔から研究されている。しかし、社会状況が、環境に配慮するようになり、省電力、指定有害物質の低減、もしくは削除などの要請により後押しされた嫌いがある。

わかっていることだが、ブラウン管の映りは悪くない。液晶、プラズマに劣ることはない。大きなテレビを望めば、設置スペースが必要になるだけである。というと、住環境の変化もシグナルである。

つまり、<イノベーター>や<早期採用者>がなぜ採用したのかは、因果関係不明なのである。否、因果関係複雑性かもしれない。  

・・・企業では、一般解は必要ない。しかしながら、特殊解を導く能力を有している企業は少ない。 


 <参考> 
*1:NIKKEI NET http://www.nikkei.co.jp/news/main/20061206AT1D0608F06122006.html 
*2:E・フォン・ヒッペル 榊原清則訳『イノベーションの源泉』ダイヤモンド社,1991. 
書籍:『イノベーションの経営学―技術・市場・組織の統合的マネジメント』pp224~, 7.6 イノベーションの普及を予測する より。

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