イノベーション―ネットワークとスモールワールド

2009年5月12日

MBA 研究

t f B! P L
イノベーションを考察するなら、多くの人がこの課題を考える。

”ネットワーク”である。

それは、チーム、企業間など様々な場合があるが、何らかのネットワークを構築している。またそれは、取引企業のみかもしれないし、研究開発であれば、大学や研究機関もネットワークに含まれているかもしれない。

詰まるところ、今後のMOTの成功は、「MOTの課題は、研究、製造などの個々のシステムを研ぎ澄ますのではなく、ネットワークの最適化なのである」(吉村* 趣意)が最も一般的な見解である。

これは、今までの伝統的な考え方とは親和性は低く、例えば、未だに、研究、開発、設計、製造など、個々での最適化にばかり目を向け・・・いやいや、顧客から見れば、同じような製品を製造しているにも関わらず、事業体が異なったり(=企業内なのにネットワークが切れている)、と目を向ければ意外に頭だけでわかっていることが多い。

要は、仕組みが大切なのであり、○○製造方法や△△技術は、その手段なのである。

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さらに、ここで、ネットワークの測定系である「距離」を加えて考える。

大企業でよく見られる、メーカーと下請け企業のクラスター化は「近距離」、別業種や産学連携などを「遠距離」とすると、これらとの交流は、どちらかと行なうと、どちらかとの時間が少なくなるが、こういった交流を両立させる現象として、「スモールワールド現象**」が挙げられている***。

結局は、「この特性を持ち、ネットワークを構築していくことが大切***」だそうだ。


では、次に距離を計測してみる****。
(過去に本ブログでも紹介したことがある:記事はこちら

この研究では、特許のサンプルにバイオ技術分野を用い:
①その発明者間の距離
発明者間距離
②特許に引用されている論文(知識創出の源)とその特許の発明者との距離
論文伝達距離
という2つの距離を定義する(ここで距離とは物理的距離)。

それらを計測した。結果:
発明者間距離:31.7km
論文伝達距離:4323.5km

*ともに中央値

と分析されている。
論文=知識想像の源(研究成果が論文という形式知にまとめられている)へのアクセスは、遠くまで行われるのに対し、技術の発明は、近距離に頭脳が集積していることが重要であることを示唆している。

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どのようにして、新しいサービス、製品を生み出すかの仕組みが変化しつつある・・・ということは、それを最も効果的に実施する枠組みも変わっていく、従業員、経営者の問われるスキルも変わっていく。ならば、企業の教育も変えなければならない部分もある。


・・・変化に対応する、成功する仕組みは、だいぶソフト部分になってきましたね。


*吉村真弥,「イノベーション促進のためのネットワークの最適化の考察」,UNISYS TECHNOLOGY REVIEW, Vol90, AUG. 2006(http://www.unisys.co.jp/tec_info/tr90/9002.pdf

**スモールワールド現象に関する本ブログの以前の記事
http://tech-d.blogspot.com/2007/01/small-world.html
「広いようで世間は狭い」、スモールワールド現象とはこのようなものである。有名なのは、Milgramの実験(1967)で「6次の隔たり」という概念である。例えば、あなたはある神学者の妻は知らないが、手紙やメールで知り合いを通じてその人に行きあたるまで、平均すると6回であるという。

ex)(あなた)→(友人)1→・・(友人)6→(神学者の妻)

これらには、特徴があり、経路が一部のノードに集中(scale-free)、経路が集中するも頭打ち(broad-scale)、経路の集中するノードほど数が減る(single-scale)ことが示唆されている(下の文献)。ノードとは例では(友人)、経路とは→(矢印)のことである。実験は多数のスタート点を設け実験した知見である。

*L.A.NAmaral, A.Scala, M.Barthelemy, and H.E. Stanley, "Classes of small-world networks", PNAS(www.pnas.org), 2000.
スモールワールド現象(Wikipedia)

***日刊工業新聞では2009年1月に「次世代のイノベーションを考える」として東大の坂田先生が4回にわたり記事を執筆しています。特に1/19号にて「スモールワールド現象」に触れています。

****知的財産研究所,『特許の経営・経済分析』,雄松堂出版, 2007, pp125-135;第5章 頭脳集積の必要性より。

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