砕けるダイヤ―10年の苦労

2010年4月11日

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独立行政法人海洋研究開発機構 地球内部ダイナミクス領域の廣瀬敬招聘上席研究員・巽好幸プログラムディレクター、東京工業大学の舘野繁彦特任助教及び財団法人高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門の高田昌樹部門長・大石泰生主幹研究員らは、レーザー加熱ダイヤモンドアンビル装置を用いて、地球の中心に相当する超高圧・超高温の状態(364万気圧、5,500度)を実験室内で実現することに、世界で初めて成功しました
SPring-8 HPでのプレスリリースより


この研究での最大の課題は、加圧⇔減圧を行なう、ダイヤモンドアンビルの出来、不出来である。

!!!とえらっそうなことを言っているが、本記事記載者は本研究の研究室OBではありませんので、その辺は差し引いて御覧ください。


とはいうものの全くの無関係者ではなく、私の大学時代の研究は、高圧化における結晶構造解析であったので、他の記事で記載されていた成功までの苦労―“ダイヤ加工に関して10年続けた苦労”はよく分かる。


何気に、この関連の分野は、「地球中心に相当する圧力・温度の状態を実現することは、地球深部に関する実験的研究の究極の目標」などの研究目的であるが、低温分野も含め、高圧化、高温化・・・


これだけの条件で、構造解析が行なえるということは、(これらの研究は)いうまでもなく、企業が抱えている素材の結晶構造解析などは、常温常圧でいいのであれば、赤子の手をねじるよりやさしいことである、というぐらい意義を見出せるものである。


ダイヤモンドアンビル装置(上記プレスリリースより)
高圧を発生させるには、図におけるダイヤ先端部の面積は小さいほうがいい。圧力は、N/m^2(^2:2乗)なので同じ力であっても、面積が小さいほうがより高い圧力が得られる。

だが、それは、加工や先端部分への試料の設置の困難さが飛躍的に増すことを意味している。何せ、図でも示されるが、1mm未満である。

SPring-8などの放射光を用いるのであれば(いや大学の実験室レベルでさえ)、不純物一つが命取りである。

さらに、○○万気圧(=○○GPa)という超高圧化である。上部、下部が少しでも水平でなければ・・・簡単にダイヤは割れる。


構造解析でのX線や放射光は図でいえば、縦方向に入射する。当然、それぞれのダイヤモンドの透過性が悪ければ、話にならないので、その選定も必要である。

また、一番硬いとはいえ、これだけの超高圧―加圧⇔減圧をひょいひょい行なえば、驚くほどダイヤは簡単に割れてしまう。どちらも慎重に、ゆっくり行なわれる。


もう、このダイヤモンドアンビルの製作、というものづくり的な側面が、成否に大きく関わっている。


企業に入り、研究開発の失敗・・・なんてよくあるが(というより、ほとんどがそうである)、この研究こそ、当時では、4年生の段階で、“ダイヤモンドアンビルを用いて実験できる”程度が習熟の限界というほど(大げさか!?)、山のように失敗する。


たまに、成功しても、現在、どれぐらいの圧力なのか―当該試料とは別に、圧力計測用の試料も先端部に封入するのだが、当たり前の話、当該試料に影響を及ぼすのでごく少量であり・・・それを見失うことがある。見失えば、現在の加圧した圧力がわからないので、強制終了である(私が所属したゼミの場合)。



学生時代は、つくばのPF(Photon Factory)での実験で、研究用のデータを取得していたが、これだけの施設―「明日実験行きます」「はい、どうぞ」というわけにはいかない。


割り当てられた時間内が勝負なのであるが、ダイヤは割れる、(関連の)装置がシャットダウンする・・・所属の先生や研究室の仲間には多くの迷惑をかけてしまった。


それは、さておき、当時、同じ研究グループ(大学は異なるが)の先輩が、

「あぁ~100GPa(=100万気圧)ぐらいまできたけど、(ダイヤに)ヒビが入ってきたわ。」


なんて台詞を聞いて、“どこまであげんねん!?”などと思ったものだが、今回のニュースでは364万気圧・・・


・・・どこまであげんねん!?


*研究対象の素材にもよりますので、圧力が高ければいい、というものではありません(一応)。
*本記事のタイトル、及び内容の「ダイヤモンドが割れる」ことは、このような研究をしている研究グループ、また記事の研究グループの主要な問題ではありません。



<研究関連>
*本研究の紹介
「世界で初めて地球中心の超高圧高温状態を実験室内で実現−地球内部のあらゆる物質が人工合成可能に」
東京工業大学 理工学研究科 地球惑星科学専攻 丸山・廣瀬研究室


<関連施設、機関>
SPring-8
KEK:高エネルギー加速器研究機構
日本高圧力学会

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